【2025年7月更新】IDaaSとは?必要性と導入メリット、代表的なサービスを詳しく解説

- IDaaS(Identity as a Service)の基本的な仕組みと導入メリット
- 企業が直面するID管理の課題とIDaaSによる解決方法
- Okta Workforce Identity Cloudをはじめとする代表的なIDaaSサービスの特徴
テレワークの普及やクラウドサービスの活用が進む中で、企業のID管理はこれまで以上に複雑さを増しています。アカウントの削除漏れやパスワードの使い回しといったセキュリティリスクに加え、複数のSaaSや社内システムへの対応で、IT部門の負担も深刻化しているのが現状です。
こうした課題を根本から解決する手段として注目されているのが「IDaaS(Identity as a Service)」です。
本記事では、IDaaSの基本的な仕組みから導入のメリット、主要なサービス、そして活用する上での注意点まで、ITに詳しくない方にも分かりやすく解説します。
IDaaS(アイダース)とは?

IDaaS(Identity as a Service)とは、クラウド経由でID管理や認証、シングルサインオン(SSO)、アクセス制御などの機能を提供するサービスです。「Identity as a Service」の略で、「アイダース」または「アイディーアース」と呼ばれます。
SaaS(Software as a Service)の一種として提供されており、AWSやMicrosoft Azureに代表されるクラウドサービスの普及とともに、重要性が高まっています。
従来のID管理は、社内サーバーを使ったオンプレミス型が一般的でした。IDaaSはこれに代わり、クラウド上でIDを一元管理できる点が大きな特長です。
特に、以下のような課題を抱える企業にとって、IDaaSは効果的な解決策となります。
- 複数のサービスにまたがるID管理の煩雑さ
- ID管理者の負担増加
- サービスごとのログイン操作の手間(利用者側)
クラウドを活用することで、より効率的かつ安全なID管理を実現できるのがIDaaSの強みです。
なぜ今IDaaSが必要か?企業が抱える3つのリスク
2025年3月に警察庁が発表した「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」によると、2024年の不正アクセスの認知件数は前年より減少したものの、2023年以前と比べると約2倍以上の高水準に達しています。一時的に減少したとはいえ、企業が日常的にサイバー攻撃の脅威にさらされている状況に変わりはありません。
また、同調査によれば、不正アクセスの手口のうち最も多かったのは、「パスワードの設定・管理の甘さにつけ込んだ攻撃」(174件)でした。次いで多かったのが、「元従業員や知人による犯行」(107件)で、特に後者は前年比1.57倍と大きく増加しています。これは、企業のアカウントの管理不足が重大なリスクとなることを示しています。
ここでは、企業が直面している主な3つのリスクについて解説します。
IT部門の負担が増え、管理が複雑になっている
クラウドサービスの普及により、業務で利用するアプリケーションの数は年々増加しています。それに伴い、管理すべきIDやパスワードも増え、IT部門の作業負担は大きくなっています。
特に負荷が高いのが、入社・退職・異動といった人事イベントに伴うアカウント管理です。アカウントの追加、削除、権限変更などを手作業で行っていると、設定ミスや対応漏れが発生しやすくなります。
中でも、退職者のアカウント削除漏れは、情報漏洩のリスクに直結します。さらに、不要なライセンスコストが継続して発生するなど、業務効率やコスト管理の面でも大きな問題につながるのです。
ログが分散し、監査証跡や異常検知が難しくなる
セキュリティ対策や内部統制の観点では、「誰が・いつ・どのシステムにアクセスし、何をしたか」という操作ログを正確に管理することが欠かせません。
しかし、各システムが独立してログを管理している場合、情報を横断的に収集・分析することは困難です。このような環境では、不正アクセスなどのインシデントが発生しても、原因特定や被害範囲の把握に時間がかかります。
また、IDの棚卸しや外部監査への対応にも影響し、組織全体の統制力を損なう可能性もあります。
ユーザーのパスワードの管理負担が大きくなっている
利用するサービスの数が増えるほど、従業員が管理しなければならないIDとパスワードは増加します。その結果、ユーザーは利便性を優先し、下記のような不適切なパスワード管理に頼るケースも少なくありません。
- 推測されやすい単純なパスワードの使用
- 複数のサービスでのパスワードの使い回し
- メモやファイルへの書き留め
これらはパスワード漏洩や不正アクセス、アカウント乗っ取りといったインシデントを引き起こす大きな原因となります。
このように、ユーザーのID管理の課題を放置することは、管理部門の負担増だけでなく、企業全体をセキュリティリスクにさらすことにつながるのです。
IDaaS導入により得られるメリット
IDaaS導入により、企業はさまざまなメリットを得られます。主なメリットは以下の5つです。
- 運用コスト・負担の軽減
- セキュリティの強化
- ユーザーの利便性向上
- システムの利用状況の可視化
- ゼロトラストの実現
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
運用コスト・負担の軽減
IDaaSを導入することで、ID管理にかかる運用コストとIT部門の業務負担を大きく軽減できます。
特に効果が大きいのは、社員の入社・退職・異動に応じたアカウントの追加・削除・権限変更の自動化です。IDaaSではこれらの操作をルールに従って自動で実行できるため、煩雑な手作業を省略できます。これにより、人為的ミスや対応漏れといったリスクの抑制につながり、結果として管理工数の削減が可能になるのです。
さらに、放置されたアカウントによって発生していた不要なライセンス費用も最小化できるため、コスト面でも効果が期待できます。加えて、「パスワードを忘れた」といった問い合わせが減少することで、ヘルプデスク対応の負荷も軽くなります。
セキュリティの強化
IDaaSの導入は、企業の情報セキュリティ対策の強化につながります。特に、以下の3つの機能が重要な役割を果たします。
-
多要素認証(MFA)
IDとパスワードに加えて、スマートフォンや認証アプリを活用した多要素認証を導入。万が一パスワードが漏洩しても、本人以外による不正ログインを防止できます。 -
パスワード管理の一元化
複数のサービスで異なるIDやパスワードを使う必要がなくなり、ユーザーの負担が軽減されます。使い回しや安易なパスワードの設定といったリスクを防ぎ、情報漏洩の抑制につながります。 -
アクセス制御
ユーザーの役職や部署、アクセス元の場所・時間帯などに応じて、アクセス権限を細かく設定可能。不要な権限付与を防ぎ、内部不正や外部攻撃に対するセキュリティを強化できます。
これらの機能を組み合わせることで、セキュリティ対策の水準を引き上げつつ、IT部門の管理負荷を軽減することが可能です。
ユーザーの利便性向上
IDaaSの導入は、セキュリティだけでなく、システム利用者である従業員の業務効率にも大きなメリットがあります。
シングルサインオン(SSO)機能でIDaaSに一度ログインすれば、連携されている複数のクラウドサービスや社内システムに再認証なしでアクセスできます。サービスごとにIDやパスワードを入力する手間がなくなり、スムーズに業務を実施することが可能です。
また、ユーザーが覚えるべきID・パスワードもIDaaSの1組だけで済むため、多数の認証情報を管理する煩雑さもなくなります。パスワード忘れによるストレスや、再発行の手間も大きく軽減されます。
システムの利用状況の可視化
IDaaSを活用すれば、誰が・いつ・どのシステムにアクセスし、どのような操作を実施したのかといったログを取得・分析できます。これにより、IDの利用状況を可視化することが可能です。
これにより、不審なアクセスを早期に発見できるだけでなく、利用頻度の低いサービスを特定して解約するなど、ITコストの最適化につなげることができます。この機能は、データに基づいた経営判断を行うDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上でも、重要な基盤となります。
ゼロトラストの実現
IDaaSは、近年重要視されている「ゼロトラストセキュリティ」の実現に大きく貢献します。ゼロトラストとは、「社内も社外も安全な領域はない」という前提に立ち、すべてのアクセスをその都度厳しく検証するというセキュリティの考え方です。
IDaaSはログイン情報の一元管理やアクセス制限、多要素認証(MFA)といった機能を備えており、「毎回認証」の原則に対応できます。
ただしゼロトラストの構築には、ID管理だけでなく、端末やネットワーク、データ保護なども含めた多層的な対策が必要です。そのため、IDaaSを軸としつつ、他のセキュリティソリューションとの連携が欠かせません。
IDaaSの主な機能
ここでは、IDaaSが提供する代表的な4つの機能について、それぞれの役割と導入効果を詳しく解説します。
- シングルサインオン(SSO)
- 多要素認証(MFA)
- 権限ライフサイクル管理
- ログ監査・可視化
シングルサインオン(SSO)
シングルサインオン(SSO)は、IDaaSの中核をなす重要な機能です。一度IDaaSにログインするだけで、連携された複数のクラウドサービスや社内システムに再認証なしでアクセスできる仕組みです。
この機能により、サービスごとにIDやパスワードを入力する手間がなくなり、ユーザーの利便性が大きく向上します。ログイン作業にかかる時間を短縮できるため、業務効率の改善にもつながります。
多くのIDaaS製品ではクラウド環境だけでなく、オンプレミスの業務システムに対してもSSOを適用できるため、社内インフラとの親和性にも優れています。
多要素認証(MFA)
多要素認証(MFA=Multi-Factor Authentication)は、IDaaSが提供する代表的なセキュリティ強化機能のひとつです。IDとパスワードだけに依存しない本人確認を実現し、不正アクセスや情報漏洩のリスクを大幅に抑えることができます。
たとえば、以下のような異なる認証要素を組み合わせることで、認証の強度を高めることが可能です。
- 知識情報:ユーザーが知っている情報(パスワードなど)
- 所持情報:ユーザーが持っているデバイス(ICカード、スマートフォン、USBキーなど)
- 生体情報:ユーザーの身体的特徴(指紋認証、虹彩認証など)
これらの認証要素を2つ以上組み合わせることで、万が一ひとつの要素が突破された場合でも、本人以外のアクセスを防げる多層的な防御が実現します。
権限ライフサイクル管理
権限ライフサイクル管理とは、ユーザーの入社・異動・退職といった各フェーズにおいて、アクセス権限を適切に付与・変更・削除していく仕組みです。
IDaaSを活用することで、入退社や部署異動といった人事イベントに応じて、アカウントの作成・削除や権限の割り当て・解除を自動で行うことが可能です。これにより、設定ミスや対応漏れといったセキュリティリスクを未然に防げます。
また、「そのユーザーが必要とする範囲のみにアクセスできる状態」が保たれるため、セキュリティの基本原則である「最小権限の原則」にも寄与します。これにより、万が一アカウントが悪用された場合でも、被害を最小限に抑えられるのです。
ログ監査・可視化
ログ監査・可視化機能では、IDaaSおよび連携システムにおける認証履歴、アクセス状況、管理者の操作ログなどをまとめて収集・管理します。
「誰が・いつ・どのシステムにアクセスしたか」を把握できるため、不審なアクティビティの早期発見や、インシデント発生時の迅速な原因究明につなげることが可能です。
加えて、これらのログは監査証跡としても活用され、セキュリティ対策や内部統制の信頼性を高めるうえでも重要な役割を果たします。
IDaaSを導入する際の課題
IDaaSには多くのメリットがありますが、導入にあたってはいくつかの注意点も存在します。特に、企業ごとの業務フローやIT環境に適合させるには、慎重な設計と検討が欠かせません。
スムーズな導入と運用を実現するためには、次の3つの観点を事前に整理しておくことが重要です。
- 運用プロセスの設計
- 既存システムとの連携
- 費用の最適化
以下、それぞれの課題について解説します。
運用プロセスの設計
IDaaSを導入する際は、ツールの機能だけでなく、それを自社の業務にどう組み込むかという運用設計が欠かせません。ID管理やアクセス制御に関するポリシーを明確にし、組織全体で統一されたルールを整える必要があります。
特に重要なのは、入退社や異動といった人事イベントにあわせて、アカウントや権限の変更をどう処理するかを事前に定めておくことです。「いつ・誰が・どのように対応するのか」といった実務レベルの設計が不十分だと、現場で運用が回らず、仕組みが形だけになってしまう恐れもあります。
このように、IDaaSの導入を成功させるには、自社の体制や業務フローを踏まえたプロセス設計が不可欠です。
既存システムとの連携
IDaaSを導入する際、多くの企業で課題となるのが既存システムとの連携です。特に、オンプレミス環境やIDaaSに対応していないSaaSとの接続には注意が必要です。
たとえば、独自のAPIを持つSaaSでは、IDの追加や削除、属性変更といった同期処理を自動化できず、手作業で対応しなければならない場合があります。こうした状況は、IT部門の運用負荷を大きく引き上げる要因となります。
そのため、連携が難しいシステムについては、あらかじめ手動対応の範囲や代替手段を定めておくことが重要です。導入前にシステムごとの連携可否を精査し、現場で混乱が生じないようにしましょう。
費用の最適化
IDaaSを導入する際には、初期費用やユーザー数に応じたランニングコストが発生するため、コスト構造を事前に把握しておく必要があります。特に導入規模が大きい場合は、継続的な運用コストが重荷になることもあります。
そのため、価格だけでサービスを選ぶのではなく、自社の業務効率やセキュリティ強化といった効果と見合っているかを総合的に評価することが重要です。
そのうえで、自社の課題や運用体制に合った機能を持つサービスを選定すれば、コストを抑えつつ、最大限の効果を得ることができます。
IDaaSを実現するサービス Okta Workforce Identity Cloudとは
IDaaSの導入を検討するにあたり、「どのサービスを選ぶべきか」と悩む方も多いのではないでしょうか。さまざまな製品があるなかで、特に高い評価と実績を誇るのが、Okta Workforce Identity Cloud(WIC)です。
Okta社が提供するこのIDaaSは、世界中の企業や組織で導入されており、7,500以上のクラウドサービスおよびオンプレミスシステムとの連携に対応しています。多様なシステム環境におけるID管理を柔軟に統合できる点が大きな強みです。
IDaaSの主要機能であるシングルサインオン(SSO)や多要素認証(MFA)、アクセス制御、ログ監査はもちろん、下記のような高度なセキュリティ・運用機能も備えています。
- アダプティブ多要素認証(必要に応じて追加の本人確認をする認証方式)
- パスワードレス認証
- ワークフロー自動化など
さらに、オンプレミスのActive Directory(AD)やLDAPとの連携にも対応しており、既存のITインフラとスムーズに統合できる点も魅力です。
ガートナーなど複数の調査機関から高い評価を受けており、IDaaSを選定するうえで有力候補の一つといえるでしょう。
さまざまな脅威に対抗するため全方向で支援するJBCC

クラウド活用やリモートワークの普及により、企業が守るべきIT領域はこれまで以上に広がっています。ネットワークやアプリケーションだけでなく、ID管理、デバイス、データといった幅広い領域に対応するため、JBCCでは全方位的なセキュリティ支援体制を構築しています。
「IDaaS運用支援サービス」では、IDの追加・削除・属性変更、障害対応、ID利用状況の定期レポート作成など、導入後の安定運用を専門エンジニアがサポート。多要素認証(MFA)やIDプロビジョニングの設計・運用にも対応し、ID管理の効率化と安全性向上を同時に実現します。
複雑化するクラウド環境の中でも、業務への影響を最小限に抑えながらセキュリティを強化できるのがJBCCの強みです。

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本記事では、IDaaS(Identity as a Service)の必要性や導入メリット、主要機能、注意点、さらに注目サービスであるOkta Workforce Identity Cloudについてもご紹介しました。
とはいえ「実際にIDaaSをどう導入するのか」「IDaaS導入後の運用はどうすればいいのか」といった課題を感じている方も多いのではないでしょうか。そうした方に向けて、JBCCが提供するオンデマンドセミナーをご紹介します。
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よくある質問
- Q1. IDaaSはどのような企業に向いていますか?
- A. IDaaSは、複数のクラウドサービスや社内システムを利用している企業、リモートワークを導入している企業、セキュリティ強化を求める企業に特に適しています。IT部門の負担軽減やゼロトラストの実現にも貢献します。
- Q2. IDaaS導入にあたっての注意点はありますか?
- A. 運用プロセスの設計、既存システムとの連携、費用の最適化が重要です。
特にオンプレミス環境との接続や、IDaaS非対応のSaaSとの連携には事前の検討が必要です。
- Q3. Okta Workforce Identity Cloudの強みは何ですか?
- A. Oktaは7,500以上のクラウド・オンプレミスシステムと連携可能で、SSOやMFA、ログ監査などの機能に加え、アダプティブ認証やパスワードレス認証など高度なセキュリティ機能も備えています。既存インフラとの統合性にも優れています。
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