マルチクラウドとは?メリットやハイブリッドクラウドとの違いをわかりやすく解説
 
マルチクラウドとは、複数のクラウドサービスを組み合わせて、自社に最適なクラウド環境を構築する運用形態のことです。各クラウドの「いいとこ取り」ができるため、業務システムの特性やニーズに合わせた最適なクラウド環境を構築できます。
利点が多いマルチクラウドですが、導入にあたってはデメリットやリスクも存在します。
本記事では、マルチクラウドとは何かをふまえ、ハイブリッドクラウドとの違いやメリット・デメリット、導入の進め方や導入時のリスクについてわかりやすく解説します。
マルチクラウドとは
マルチクラウドとは、複数のクラウドサービスを組み合わせて利用することです。単一のクラウドベンダーに依存するのではなく、それぞれのサービスが持つ強みを活かし、目的に応じて最適なクラウドを使い分けます。
Amazonが提供する「AWS(Amazon Web Services)」、マイクロソフトの「Azure(Microsoft Azure)」、Googleの「GCP(Google Cloud Platform)」のようなパブリッククラウドを組み合わせるケースが多くみられます。
マルチクラウドでは、データベースにはA社のクラウドを、アプリケーションにはB社のクラウドを利用するといった使い分けが可能になります。業務システムの特性やニーズに合わせた最適なクラウド環境を構築できるのが大きな利点です。
マルチクラウドの必要性
クラウドサービスを利用する企業の割合は年々増加しており、総務省の令和7年版情報通信白書によると、2014年に38.7%だった企業のクラウドサービスの利用率が、2024年には80.6%と大きく伸長していることが判明しています。その背景には、多様な働き方やグローバル化への対応、緊急・非常事態時における事業継続や早期復旧を可能とするBCP対策の必要性が挙げられるでしょう。
また、業務効率化やレガシーシステムからの脱却と同時にインフラコストの見直しや、セキュリティの強化、運用負荷の削減を目的に、クラウド化が進んでいます。一方で、特定のベンダーの環境にすべてのシステムを集約する「シングルクラウド」は、利用が増えるほどそのベンダーへの依存度が高まります。
この状態は「ベンダーロックイン」と呼ばれ、サービス料金の値上げや、特定の機能が提供されないなどの問題が発生した場合でも、他のクラウドへの移行が困難になる、あるいはそのベンダーからの要求を受け入れざるを得ないといったリスクがあります。
ベンダーロックインのリスクの軽減や、企業の業務やシステムに最適なクラウド環境を構築しビジネスの継続性を高めるために、クラウドリソースを複数のクラウドに分散させるマルチクラウドが重要かつ必要とされているのです。
これにより、柔軟なIT戦略が可能となり、企業の競争力向上にもつながります。
マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違い
マルチクラウドとハイブリッドクラウドは、どちらも複数の環境を組み合わせる点では同じですが、その中身が異なります。
- マルチクラウド
- 異なる会社のクラウドを複数組み合わせる運用形態
- ハイブリッドクラウド
- オンプレミスやプライベートクラウドなど、異なるインフラを組み合わせる運用形態
マルチクラウドは、パブリッククラウドのみを利用する環境です。一方で、ハイブリッドクラウドは、プライベートクラウドやオンプレミスのような、自社専用のシステムも利用する点が大きな違いとなります。
なお、ハイブリッドクラウドの構成要素として複数のパブリッククラウドを取り入れた場合、それはマルチクラウドの一種とされることもあります。
マルチクラウドのメリット
マルチクラウドには、主に以下の4つのメリットがあります。
- 最適なサービスを選択できる
- コスト削減と業務効率化につながる
- ベンダーロックインを回避できる
- リスクを分散できる
ここでは、各メリットを詳しく解説していきます。
最適なサービスを選択できる
それぞれのクラウドサービスには、得意な分野や強みがあります。
たとえば、AWSは自由度の高い開発・運用、AzureはMicrosoft製品との高い親和性、GCPはビッグデータ解析やAIに優れている点が特徴です。
マルチクラウドを利用すれば、特定のベンダーに縛られず、それぞれのサービスの強みを「いいとこ取り」できます。
これにより、システムの要件や目的に応じて最適なサービスを柔軟に選び、単一のクラウドだけでは実現が難しい、高性能で高機能なシステムを構築することが可能になります。これはマルチクラウドの大きなメリットです。
コスト削減と業務効率化につながる
クラウドサービスを導入することで、自社で物理サーバーの調達や環境構築が不要となり、初期コストを大幅に削減できるメリットがあります。
多くの主要なクラウドサービスは従量課金制を採用しているため、使用した分だけ料金を支払うモデルとなっており、無駄なコストを抑えやすくなります。
さらに、複数のクラウドベンダーの料金体系を比較し、用途に合わせて最もコスト効率の良いサービスを選ぶことで、全体の運用コストを最適化できます。
これにより、物理的なインフラ管理にかかる時間や労力が減り、本来の業務に集中できるようになるため、業務効率化にもつながります。
ベンダーロックインを回避できる
ベンダーロックインとは、単一のクラウドサービスに依存してしまい、他のサービスへの移行が難しくなる状態を指します。
この状態に陥ると、仮に利用料金が値上げされたり、サービス内容が変更されたりしても、他社サービスへ簡単に乗り換えられず、企業にとって不利な状況に陥るリスクがあります。
マルチクラウド環境では、複数のベンダーと取引することで、特定のベンダーへの依存度を下げることができます。これにより、よりコスト効率の良いサービスや、高性能なサービスが登場した際に、柔軟に移行するという選択肢を持つことが可能です。
将来的なビジネスの変化にも対応できる点が、マルチクラウドの大きなメリットといえます。
リスクを分散できる
たとえ信頼性が高いクラウドサービスであっても、大規模なシステム障害が起こる可能性はゼロではありません。単一のクラウドサービスに依存していると、そのサービスで障害が発生した場合、自社のサービスも停止してしまうリスクがあります。
マルチクラウドを導入し、システムを複数のクラウドに分散させれば、仮に一方のクラウドで障害が起きても、もう一方のクラウドで業務を継続できます。
さらに、異なるクラウド間でバックアップを取ることで、大切なデータの消失リスクを減らせます。これは、企業の事業継続性(BCP)を高め、リスクを最小限に抑える上で大きなメリットとなります。
マルチクラウドのデメリット
マルチクラウドは多くのメリットがある一方で、いくつか注意すべきデメリットも存在します。マルチクラウドの導入を検討する際は、以下のデメリットについても理解しておくことが重要です。
- コストが増加する可能性がある
- 運用・管理が複雑になる
- パフォーマンスが低下するケースがある
コストが増加する可能性がある
複数のクラウドサービスを利用すると、一見するとコストを分散でき、費用を抑えられるように思えます。しかし、実際には管理が複雑になり、かえってコストが増えてしまう可能性があります。
これは、各サービスで発生する利用料や通信費を個別に管理する必要があるため、全体としてどれくらいの費用がかかっているのか把握しにくくなることが原因です。
また、サービスごとに料金体系が異なるため、意図しない課金が発生し、予期せぬ出費につながるリスクもあるでしょう。
運用・管理が複雑になる
複数のクラウドサービスを運用する場合、それぞれの管理画面、API、運用ルールなどを個別に理解し、管理する必要があります。このため、運用・管理にかかる手間が大幅に増え、システム担当者の負担が大きくなる可能性があります。
また、トラブルが発生した際には、どのクラウドサービスで問題が起きているのかを特定し、原因を切り分けるために多くの時間と労力がかかる恐れがあります。
このような運用・管理の課題は、とくに情報システム部門のリソースが限られている中小企業で発生しやすいでしょう。
パフォーマンスが低下するケースがある
複数のクラウドサービスを組み合わせてシステムを構築する場合、サービス間で頻繁に連携やデータ通信が発生します。このとき、クラウドサーバー間の物理的な距離やネットワークの状況によって通信遅延(レイテンシー)が発生し、システム全体のパフォーマンスが低下する可能性があります。
とくに、リアルタイム性が求められるサービスや大量のデータを扱うシステムでは、この通信遅延がサービスの品質に大きく影響を与えるため、注意が必要です。
マルチクラウド導入の進め方
クラウド戦略を検討する際、マルチクラウドありき、あるいはシングルクラウドありきで考えるのは得策ではありません。まずは、移行したいシステムの利用用途や求める機能、各サーバーの利用状況などの可視化を行い、そのうえでマルチクラウドかシングルクラウドか、どちらが最適なのかを判断します。
検討の結果、マルチクラウドが最適となった場合、計画的かつ段階的に導入を進めることが重要です。以下では、マルチクラウド導入の進め方をステップごとに解説していきます。
マルチクラウド導入目的の明確化
マルチクラウドを導入する際は、まずどこにどのパブリッククラウドを利用するのか、その目的と対象を明確にすることが重要です。
目的は、コスト削減やシステムの可用性向上などさまざまです。自社のIT戦略やビジネス上の課題を具体的に洗い出し、マルチクラウドによって何を実現したいのかをはっきりさせましょう。
この目的が曖昧なままだと、その後のベンダー選定や運用段階で方向性を見失ってしまう可能性があります。
ベンダーの比較検討・選定
マルチクラウドの導入目的が定まったら、それを実現できるクラウドベンダーを複数選び、詳細な比較検討を行いましょう。
以下のようなポイントから、ベンダーを総合的に評価することが重要です。
- サービスの内容
- 機能
- 料金体系
- セキュリティレベル
- サポート体制
- 日本語対応の有無 など
単に料金が安いサービスを選ぶのではなく、目的達成に最適な組み合わせを見つけることが大切です。
運用・管理体制の整備
複数のクラウドサービスを利用する場合、それらを統合的に管理する仕組みが必要です。
自社で一元管理するのか、あるいはベンダーに委託するのか、どちらの方法をとる場合でも、管理の責任者を明確にしましょう。
多くのクラウドベンダーは「責任共有モデル」を採用しています。これは、ベンダーと利用企業がそれぞれ担当するセキュリティの範囲を明確に分け、その範囲のセキュリティに責任を持つ仕組みです。
インフラの物理的なセキュリティはベンダーが担当し、データやアプリケーションのセキュリティは利用企業が責任を負うスタイルが一例です。
運用管理をベンダーに任せる場合でも、セキュリティ対策については自社で責任を持つ必要があるため、社内体制を整えることが求められます。
クラウド移行計画の策定
マルチクラウドを導入する環境が整ったら、次に具体的な移行計画を立てます。
既存のオンプレミス環境や、他のクラウドサービスから移行する手順、データの移行方法、移行の優先順位などを細かく定めましょう。膨大なデータを一気に移行するのは難しいため、段階的に少しずつ進めていくことが重要です。
また、移行作業中はシステムが一時的に利用できなくなることがあるため、業務への影響も考慮して計画を立てましょう。
運用状況の確認と戦略の見直し
マルチクラウドを導入したら、その後も継続的に運用状況を確認することが不可欠です。
具体的には、リソースの利用状況やセキュリティの状態などを定期的にチェックしましょう。そして、日々の運用を通じて見つかった課題や改善点に基づいて、柔軟にマルチクラウド戦略を見直すことが大切です。
マルチクラウドは自社でハードウェア設備を持つ必要がないため、方針転換をしやすいのが利点です。課題に素早く対応していくことで、自社に最適なマルチクラウド環境を構築できます。
マルチクラウドのセキュリティに関する課題
マルチクラウド環境で課題になるのが、セキュリティです。マルチクラウド環境では、具体的にどういったセキュリティ課題があるのかをみていきましょう。
包括的な監視が難しい
マルチクラウド環境では、データやアプリケーションが複数の場所に分散されるため、外部からの攻撃対象となる範囲が広がります。
各クラウドベンダーは独自のセキュリティツールや監視システムを提供していますが、これらは基本的に自社のサービス内での監視に特化しています。そのため、複数のクラウドにまたがるシステム全体を包括的に監視・統制することが難しくなります。
その結果、攻撃の予兆を見逃したり、万が一インシデントが発生した際に、原因調査に時間がかかったりする可能性があります。
コンプライアンス管理とセキュリティポリシーの統一が困難
各クラウドベンダーは、独自のセキュリティポリシー、データ保護規制、および認証を持っています。マルチクラウド環境では、複数の異なる基準に準拠する必要があり、企業全体としての一貫したコンプライアンスを維持するのが難しくなります。
また、ベンダーごとにセキュリティ設定の方法や機能が異なるため、すべてのクラウドに共通するセキュリティポリシーを統一的に適用するには、クラウドとセキュリティ双方の知識が要求され、運用の負担が大きくなります。
これにより、設定ミスや管理の不備が発生しやすくなり、意図せずセキュリティリスクを抱えてしまう可能性があります。
専門人材の不足とヒューマンエラーのリスク
マルチクラウド環境を安全に運用するには、各クラウドサービスの専門知識に加え、複数のクラウドにまたがるセキュリティを統合的に管理できる高度なスキルを持った人材が不可欠です。
しかし、このような専門人材を確保したり、育成したりするのは簡単ではありません。
限られたリソースで複数のクラウドを管理しなければならない状況では、運用担当者の負担が増大し、設定ミスやセキュリティパッチの適用漏れといったヒューマンエラーが発生する可能性が高まります。
これはシステムの脆弱性につながり、セキュリティリスクをさらに高める原因となりかねません。
安全なマルチクラウド環境の構築・運用はJBCCにお任せ
自社にあったクラウド環境を構築・移行する際には、まずは現状の可視化と分析が重要になります。
JBCCでは、安全なマルチクラウド環境の構築・運用をトータルでサポートするサービスを提供しています。
たとえば「クラウド移行コンサルテーションサービス」は、無償でサーバー環境等のアセスメントから移行プランの策定、要件定義やアーキテクチャの策定までを行うサービスです。
運用付きクラウドサービス「EcoOne(エコワン)」は、マルチクラウド対応でクラウドの設計から構築、運用までをトータルサポートし、サーバー監視やバックアップ・メンテナンスの運用をJBCCの専門チームが担当。クラウドの安定稼働とコスト最適化が実現可能です。
また、JBCCは製造、流通、金融など幅広い業種・業態で1,300社以上のセキュリティ提供実績もあります。
「クラウド設定監査サービス」は、IaaS環境における設定ミスや漏れをコンプライアンス基準に基づき監査・診断し、定期レポートにて報告するサービスです。複数のクラウドサービスの設定や稼働状況を一元的に常時監視・分析するため、セキュリティリスクをしっかりと対策できます。20ワークロードから提供可能なため、スモールスタートで取り組みたい企業にも最適です。
また、「IaaSセキュリティ監査サービス」は、AWS、Azure、GCPのマルチクラウド環境を対象としたIaaS環境のセキュリティリスクを一元的に監査・診断するサービスです。リアルタイムでシステムの状態を監視し、設定変更やリスクを継続的に監査・診断して、IaaS環境の安全性を保ちます。IaaS環境の設定監査からOSやアプリケーション等の脆弱性診断、ID権限やデータの可視化まで、1つのサービスで統合的に広い範囲を管理したい企業のご要望にもお応えできます。
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まとめ
本記事では、マルチクラウドの基本やメリット・デメリット、導入の進め方やセキュリティ面での課題について解説しました。
マルチクラウドとは、複数のクラウドサービスを組み合わせて利用する運用形態です。ベンダーロックイン回避やリスク分散、コスト最適化などのメリットがある一方、運用管理の複雑化やコスト増加、セキュリティ管理の難しさといったデメリットも存在します。
マルチクラウドへの移行を検討するなかで課題や不安がある方には、JBCCが開催する「クラウド(IaaS)相談会 」に参加してみてはいかがでしょうか。
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