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2026年08月06日

2026年08月06日

AI時代のメールセキュリティ|企業を狙う脅威・対策の種類から「導入後の運用」まで解説

AI時代のメールセキュリティ|企業を狙う脅威・対策の種類から「導入後の運用」まで解説
この記事を読むとわかること
  • メールを経由する代表的な脅威と、対策を整理するための「4つの領域」
  • 2026年7月の Microsoft 365 E3 改定が、メールセキュリティの選び方に与える影響
  • 「導入して終わり」にしないための運用タスクと、自社運用・運用委託の判断軸

メールセキュリティとは、フィッシング・マルウェア・なりすまし・誤送信など、メールを経由する脅威やリスクから組織を守るための対策の総称です。生成AIの悪用によって攻撃メールの文面が巧妙になっていると指摘されるいま、対策製品を「導入したから安心」とは言い切れないのが実情です。2026年7月の Microsoft 365 改定で標準機能が拡充されたいま、差がつくのは「どの製品を選ぶか」よりも「導入後に誰が運用するか」。本記事では脅威・対策・製品種類の基本から、見落とされがちな運用まで整理します。

この記事の目次

メールセキュリティとは|電子メール経由のリスクに備える取り組みの全体像

この章では、メールセキュリティの定義と守備範囲を整理したうえで、いま多くの企業が対応を迫られている3つの外部要因を解説します。

メールセキュリティという言葉が指す範囲

「メールセキュリティ」と聞くと、迷惑メールフィルタやウイルス対策ソフトを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、実際にカバーすべき範囲はもっと広いもの。届く脅威メールの検知・防御、送る側での情報流出対策、送信元の正当性を示すドメイン認証、従業員教育。メールセキュリティは単一の製品に限らず、これら複数の領域にまたがる取り組みの総称です。

電子メールはビジネスで最も広く使われる連絡手段であると同時に、攻撃者にとっては組織へ侵入する入り口にもなります。ひとつの製品ですべてを守り切ることは難しく、「受信」「送信」「認証」「人」のそれぞれに適した対策を組み合わせる発想が求められるのです。この全体像は、後述する「4つの領域」で詳しく整理します。

また、メールセキュリティは情報システム部門だけの課題ではありません。誤送信の防止や不審なメールへの対応は、メールを使う従業員全員に関わるテーマ。だからこそ、仕組みと運用の両面から考えていく必要があります。

いま、メール環境の総点検が求められる3つの背景

1つ目は、送信ドメイン認証への対応要請です。Googleが公表している「メール送信者のガイドライン」では、2024年2月1日以降、Gmailアカウント宛に1日5,000件以上のメールを送信する事業者に対して、なりすましや改ざんを防ぐためにSPF・DKIM・DMARCの設定が求められるようになりました。大量送信に該当しない企業でも、取引先やサプライチェーンからDMARCの対応状況を確認されるケースが増えています。また、ドコモメールのように、DMARCが未導入または認証に失敗したメールについて、なりすましの可能性を知らせる警告を表示するサービスも登場しました。対応を求めるメールサービスは年々増えており、「自社には関係ない」とは言いにくい状況になりつつあります。

2つ目は、PPAPの見直しです。パスワード付きZipファイルを添付し、直後に同じメール経路でパスワードを送る方式(いわゆるPPAP)は、2020年11月に内閣府・内閣官房が廃止方針を示したことを機に、企業の間でも見直しが広がっています。従来の運用を続けている場合、取引先から代替手段への切り替えを求められる場面も出てきました。

3つ目が、Microsoft 365 の改定です。2026年7月1日の商用ライセンス改定により、E3 プランのメールセキュリティ機能が拡充されました。標準機能の底上げは歓迎すべき変化である一方、既存の対策製品との重複整理や運用体制の見直しといった、新しい検討課題も生んでいます。詳しくは後の章で解説します。

この3つに共通するのは、いずれも自社の都合ではなく、外部環境から迫られる変化だということ。メール環境の総点検は、もはや先送りしにくいテーマになりつつあります。

メールを経由する代表的な脅威

メールを経由する代表的な脅威

IPAが公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」には、ランサム攻撃・標的型攻撃・ビジネスメール詐欺といった、侵入の起点にメールが悪用されやすい脅威が名を連ねています。本章では、企業が警戒すべき脅威を4つの類型に分けて見ていきます。

なりすまし・フィッシング(BEC:ビジネスメール詐欺)

ビジネスメール詐欺(BEC:Business Email Compromise)は、実在する取引先や自社の役員になりすまし、偽の請求書や送金指示によって金銭をだまし取る手口です。あわせて警戒したいのが、正規のログイン画面を装ってIDやパスワードなどの認証情報を盗み取るフィッシング。窃取されたアカウントがBECの踏み台として悪用されるなど、両者は地続きの関係にあります。

IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、ビジネスメール詐欺は10位にランクインしています。かつては不自然な日本語から見抜けるケースもありましたが、生成AIの悪用により文面は流暢になり、実際の業務のやり取りを装った巧妙なメールも確認されるようになりました。「見た目で判断する」防御は、限界を迎えつつあるのです。

手口のパターンも多様です。たとえば、経営者を装って経理担当者に至急の送金を指示する、取引先との請求書のやり取りに割り込んで振込先口座の変更を告げる、弁護士など第三者の権威をかたって秘密裏の対応を迫る。いずれも「急がせる」「確認させない」ことを狙った設計になっています。急ぎの送金依頼や口座変更の連絡を受けたら、メール以外の経路で相手に事実確認する。このルールを組織として決めておくだけでも、被害の確率を下げられます。

ランサムウェアをはじめとするマルウェアへの感染

ランサムウェアは、感染した端末やサーバーのデータを暗号化し、復旧と引き換えに金銭を要求するマルウェアです。近年は、データを窃取したうえで「支払わなければ公開する」と脅す二重恐喝の手口も確認されています。「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「ランサム攻撃による被害」が11年連続で選出され、1位に位置づけられました。
感染経路の中心はVPN機器やリモートデスクトップ経由とされますが、メールに添付されたファイルや本文中に仕込まれたURLを起点とする感染も引き続き警戒が必要です。国内では業務停止に至った事例も報告されており、情報漏えいにとどまらない経営リスクとして捉える必要があります。

標的型攻撃メール

標的型攻撃メールは、特定の組織を狙い、業務に関係するよう装った文面で添付ファイルやリンクを開かせる攻撃です。取引実績のある企業名や実在の部署名をかたるなど、事前に収集した情報をもとに「その組織だけに刺さる」メールが作り込まれます。IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(組織編)でも「機密情報を狙った標的型攻撃」が5位に入りました。
不特定多数へのばらまき型と異なり、フィルタをすり抜けて届く可能性が相対的に高いのがやっかいなところ。従業員個人の注意力だけに頼る防御には限界があり、技術対策と訓練を組み合わせた多層的な備えが必要となる脅威です。

ヒューマンエラーによる誤送信・情報流出(内部要因)

宛先の入力間違い、添付ファイルの取り違え、To・Cc・Bccの設定ミス。攻撃を受けなくても、こうしたヒューマンエラーから情報漏えいは起こります。個人情報や機密情報を含むメールをひとつ誤送信するだけで、関係者への謝罪や報告対応に追われることにもなりかねません。
誰にでも起こり得るからこそ、「注意する」だけでは防ぎきれないもの。送信前の確認を仕組み化する、上長承認や送信保留の機能を使うなど、ミスを前提にした仕掛けづくりが有効です。攻撃への防御と同時に、内側からの流出を防ぐ視点を忘れないようにしましょう。
たとえば、同姓の別人をアドレス帳から選んでしまい、他社宛の見積書を無関係の相手に送ってしまう。Bccで送るべき一斉メールをToで送り、受信者全員のメールアドレスが互いに見えてしまう。どちらも現場で繰り返されてきた典型例です。送信後の一定時間はキャンセルできる送信保留の設定は、こうした典型例への備えとして導入しやすい第一歩といえます。

メールセキュリティ対策の組み立て方|4つの領域で考える

メールセキュリティ対策の組み立て方|4つの領域で考える

対策は「入口」「出口」「認証」「人」の4つの領域で捉えると整理しやすくなります。自社の現状をこの4領域に当てはめ、抜けている箇所を特定していきましょう。

入口対策:脅威メールを社内に入れない

入口対策は、脅威メールが従業員の受信箱に届く前に食い止める領域です。代表的な仕組みには、迷惑メールやなりすましメールを判定するフィルタリング、添付ファイルを仮想環境で実行して挙動を確かめるサンドボックス、添付やURLから危険な要素を取り除く無害化などがあります。
あらゆる脅威を完全に防げる仕組みは存在しないものの、届く脅威メールの絶対量を減らせれば、従業員が判断を迫られる場面そのものを減らせます。多層防御の一段目として、最初に整えたい領域です。
たとえば無害化では、Word 文書に埋め込まれたマクロを自動で除去したり、HTMLメールをテキスト形式に変換したりしてから受信者に届けます。「開いてしまっても被害につながりにくい状態」をつくる発想であり、判定型のフィルタリングと組み合わせることで、すり抜けのリスクを補い合えます。

出口対策:誤送信と情報漏えいを防ぐ

出口対策は、社内から外への情報流出を防ぐ領域です。送信保留・宛先確認・上長承認といった誤送信防止の仕組み、添付ファイルをURL化してアクセス権で管理する安全なファイル共有、機密情報を含むメールを検知するDLP(情報漏えい対策)などが該当します。
PPAPからの脱却を検討する場合も、軸になるのはこの領域。「うっかり」を仕組みで受け止められるかどうかが、内部要因のリスクを左右します。
たとえば添付ファイルのURL化を導入すると、誤送信に気づいた時点でアクセス権を取り消せるため、「送ってしまったら終わり」ではなくなります。従来の添付方式との最も大きな違いは、この「あとから取り消せる」性質にあります。

送信ドメイン認証:SPF・DKIM・DMARCでなりすましを防ぐ

SPF・DKIM・DMARCは、自社ドメインをかたるなりすましメールを、受信側が見分けられるようにする仕組みです。SPFは送信サーバーの正当性の確認、DKIMは電子署名による改ざん検知、DMARCは両者の認証結果を踏まえた取り扱いポリシーの宣言を担います。
ここで守られるのは、自社が「なりすまされる」リスク。つまり、取引先や顧客が偽メールの被害に遭うことを防ぐための対策です。なお、正規ドメインにそっくりな類似ドメインを使った攻撃や、正規アカウントの乗っ取りまで防げるわけではないため、ほかの領域との併用が前提となります。Googleの送信者ガイドラインへの対応という観点でも、優先度の高い領域といえるでしょう。
DMARCの導入は、段階を踏んで進めるのが一般的です。まずはポリシーを「none(監視のみ)」に設定してレポートで自社ドメインの利用状況を把握し、正規の送信元をSPF・DKIMに登録し終えてから、「quarantine(隔離)」「reject(拒否)」へと強めていきます。いきなり強いポリシーを宣言すると正規のメールまで届かなくなるおそれがあるため、焦らず進めるのが定石です。

従業員教育・訓練:ヒューマンエラーに備える

どれだけ技術的な対策を重ねても、最後にメールを開くのは人です。標的型メール訓練で「不審なメールを開かない・開いてしまったら速やかに報告する」行動を定着させる、報告をとがめない文化をつくる、判断に迷ったときの相談先を明確にする。「人」への投資は、技術対策と両輪で機能します。
訓練を実施する際は、開封率の数字だけを追わないのがコツ。報告率の向上を目標に据えると、実際のインシデント対応力につながりやすくなります。
実施の頻度は、年1回の一斉訓練だけで終わらせず、時期や文面パターンを変えながら継続するのが望ましいところ。新入社員や異動者が入るタイミング、実際の攻撃キャンペーンが話題になったタイミングなど、組織の変化や外部環境に合わせて小さく繰り返すことで、訓練は「行事」から「習慣」へと変わっていきます。

メールセキュリティサービス・製品の種類と選ぶ際の視点

提供形態ごとの特徴と、比較検討で見られがちなポイントを整理します。そのうえで、多くの比較記事が触れていない「もうひとつの比較軸」を提示します。

3つの提供形態:クラウド型・ゲートウェイ型・エンドポイント型

クラウド型は、クラウド上のサービスがメールサーバーと連携して脅威を防ぐ形態です。導入が比較的速く、運用負荷を抑えやすいのが持ち味で、Microsoft 365 などのクラウドメールとの親和性にも優れます。

ゲートウェイ型は、自社ネットワークとインターネットの境界に設置する形態。既存のメール環境を大きく変えずに追加でき、細かな制御を利かせやすい特徴があります。オンプレミス環境を運用している企業で選ばれやすいタイプです。

エンドポイント型は、PCなどの端末側で防御する形態で、メール以外の経路から入り込む脅威もあわせて守れる一方、端末ごとの管理が必要になります。どれか1つで完結させるものではなく、既存環境と守りたいリスクに応じて組み合わせて考えるのが基本です。

形態 特徴 向いている環境 留意点
クラウド型 クラウドから防御。導入が速く運用負荷を抑えやすい Microsoft 365 などクラウドメール利用企業 既存のカスタム要件との適合を確認
ゲートウェイ型 ネットワーク境界に設置し細かな制御が可能 オンプレミスのメール環境 機器の保守・更改の負荷
エンドポイント型 端末側で防御し、メール以外の経路もカバー 端末の持ち出しが多い環境 端末ごとの管理・展開が必要

選定時に比較される主なポイント

比較検討で一般的に見られるのは、次の3つの観点です。1つ目は検知範囲。フィッシング・マルウェア・ビジネスメール詐欺・誤送信のうち、どこまでを守れるのか。2つ目は既存環境との適合で、Microsoft 365 や Google Workspace との連携可否、すでに導入済みの製品との機能重複が論点になります。3つ目はコスト。初期費用・月額に加え、管理にかかる工数も見逃せません。
いずれも大切な観点ですが、この3つだけで選ぶと見落としが生じます。それが次の視点です。

比較表に載らない判断軸|「導入した後、誰が運用するのか」

製品スペックの比較は実施しても、導入後の設定・監視・対応を誰が担うかまでの検討が十分でないケースは少なくありません。検知した後のアラートはいつ誰が確認するのか。誤検知のチューニングは誰の仕事なのか。インシデントが起きたときの初動や復旧は、誰がどのような流れで進めるのか。体制図に担当者が記載されていても、具体的な復旧手順や、夜間や休日に連絡がつかないときの代替ルートまで決まっているとは限りません。スペック表には載らないこれらの点を、実際の運用に沿ってシミュレーションしないまま導入すると、「機能はあるのに使われていない」状態に陥りがちです。
選定の段階から「導入した後、誰がどのように運用するのか」を比較軸に加えておくこと。それが、後の章で扱う「導入したのに守れていない」状態を避ける近道になります。

2026年7月の Microsoft 365 E3 改定|メールセキュリティ選定の前提はこう変わる

2026年7月の Microsoft 365 E3 改定|メールセキュリティ選定の前提はこう変わる

2026年7月1日、Microsoft 365 の商用ライセンスが改定され、E3 プランのメールセキュリティ機能が拡充されました。「追加製品は不要になるのか」。この問いを起点に、選定の前提がどう変わるかを解説します。

Defender for Office 365 Plan 1 が E3 に標準追加された

Microsoft は2025年12月の公式発表で、2026年7月1日付の商用ライセンス改定にあわせて、Microsoft Defender for Office 365 Plan 1 のメールセキュリティ機能を Office 365 E3 および Microsoft 365 E3 に追加すると明らかにしました。これまで追加ライセンスや上位プランで提供されていたフィッシング・マルウェア・悪意あるリンクへの防御機能が、E3 のライセンス範囲で利用できるようになっています。
E3 を利用中の企業から見れば、使える防御機能が標準で増えた形。既存のメールセキュリティ製品と機能が重なる部分をどう整理するかも、あわせて検討したいところです。
棚卸しの進め方はシンプルです。第一に、現在契約しているメールセキュリティ製品の機能を一覧化する。第二に、E3 の標準機能でカバーされる範囲と突き合わせ、重複と不足を色分けする。第三に、重複部分は解約・縮小の候補として費用対効果を試算し、不足部分は残す。この3ステップを踏むだけでも、「なんとなく両方契約し続ける」状態は避けられます。

「標準機能があるから安心」とは言い切れない理由

機能が「使える」ことと「使いこなせている」ことは別問題です。脅威検知のポリシーは自社の環境に合わせた設定とチューニングが前提ですし、検知のアラートは誰かが確認して初めて意味を持ちます。むしろ選択肢が増えたことで、「何を有効化し、何を監視すべきか」の判断が難しくなる側面もあります。
さらに現実には、こうした対応が必要とわかっていても、それを担える要員が社内におらず、機能を持て余してしまうケースも少なくありません。標準機能の拡充は確かな前進である一方、「使いこなす体制」までは付いてこないのです。

選定軸は「どの製品を買うか」から「誰が運用するか」へ

標準機能の拡充によって、製品間のスペック差は縮まりつつあります。「どの製品を買うか」で差がつきにくくなるほど、次に問われるのは「その機能を継続的に運用できるか」。今回の E3 改定は、メールセキュリティの選定軸が製品比較から運用体制へと移っていく転換点になり得ます。
既存の対策製品と標準機能の重複を棚卸ししたうえで、浮いたコストを運用体制の整備に振り向ける。そんな見直しの好機と捉えることもできるでしょう。
なお、この見直しは「標準機能にすべて寄せる」という結論ありきで進めるものではありません。求める検知精度や誤送信防止のような標準機能の対象外領域、そして運用の担い手まで含めて総合的に判断してこそ、自社に合った構成にたどり着けます。判断がつかない部分は、外部の専門家の目を借りるのも有効です。

メールセキュリティの成否を分けるのは「導入」ではなく「運用」

導入はゴールではなくスタート。この章では導入後に発生し続ける運用タスクを具体化し、自社で担うか、外部に委ねるかの判断軸を示します。

導入後に発生し続ける運用タスク

導入後に発生し続ける運用タスク

導入後には、次のようなタスクが発生し続けます。業務メールが誤ってブロックされないよう調整し続けるポリシーチューニング。検知通知を確認して優先度を判断するアラート監視。誤検知や検知漏れへの対応。感染が疑われる端末の隔離・調査・報告といったインシデント初動。そして、攻撃手法の変化や組織変更に設定を追随させる、陳腐化への対策です。
いずれも一度やって終わりではなく、日々続いていくもの。この継続的な負荷を見込まずに導入すると、数カ月後には「アラートは飛んでいるのに、誰も見ていない」状態になりかねません。
たとえば、取引先からの請求書メールが添付ファイル検査で誤ってブロックされたケースを考えてみてください。経理からの問い合わせを受けて調査し、誤検知と判断して解除し、同様の業務メールが止まらないよう例外設定を加え、その設定が新たな抜け穴にならないかを確認する。ひとつの誤検知だけでも、これだけの対応が発生します。運用とは、この積み重ねにほかなりません。

担い手不足の情シスで進む、セキュリティ運用の属人化

情報システム部門の担当者が他業務と兼任で、セキュリティ専任者を置けない。そうした体制の企業では、設定やチューニングの経緯が特定の担当者の頭の中にしかない「属人化」が起こりがちです。担当者の退職や異動とともに設定はブラックボックス化し、「なぜこのルールがあるのか、誰にもわからない」状態に陥ることもあります。
「入れたときのまま」で放置されたメールセキュリティは、守れているという確信を持てない状態でもあります。ドキュメント化や運用の標準化を進めるとともに、そもそも自社だけで抱え続けるべきかを考えるタイミングなのかもしれません。
自社の状態を確かめるには、次の3つの問いが目安になります。現在の検知ポリシーの設定理由を、担当者以外の誰かが説明できるか。担当者が1週間不在でも、アラート対応が止まらないか。直近半年で、設定の見直しを行った記録が残っているか。ひとつでも「いいえ」があれば、属人化のサインと捉えて早めに手を打ちたいところです。

自社運用とマネージドサービス(運用委託)の判断軸

自社運用とマネージドサービス(運用委託)のどちらが適しているかは、3つの観点から整理できます。1つ目は体制。アラート対応や監視を、自社の要員で継続的にまかなえるか。2つ目は専門性で、脅威動向や製品仕様の変化に追随し続けられるかが問われます。3つ目は説明責任。対策の状況を、経営層や取引先に説明できる形で可視化できているかという観点です。
マネージドサービスを利用する場合、運用状況がレポートとして可視化されることは、経営や取引先への説明材料にもなります。一方で、自社にノウハウを蓄積したい場合や、メール環境が比較的シンプルな場合は、自社運用が適していることも。「すべて委託すべき」という話ではなく、自社の体制と照らして無理のない分担を設計することが大切です。

メールセキュリティのよくある疑問(FAQ)

Q. 個人向けと企業向けのメールセキュリティ対策は何が違いますか?
個人向けは、自分のアカウントと端末を守ることが中心で、迷惑メールフィルタや多要素認証の設定などが主な手段になります。企業向けは、組織全体のメール基盤と情報資産を守ることが中心になります。全社ポリシーの整備、ログの管理、インシデント対応体制、取引先への説明責任まで求められる点が大きな違い。利用するツールも、管理者による一元管理を前提としたものが中心になります。
また、企業では1人の油断が組織全体の被害につながり得るため、個人の心がけに加えて、仕組みとして守る発想が欠かせません。
Q. 無料ツールの範囲だけで、企業のメール環境を安全に保てますか?
クラウドメールに標準で付属する迷惑メールフィルタなどでも、ばらまき型の攻撃メールは一定程度抑えられます。一方、標的型攻撃への多層的な防御、誤送信防止、監査やレポートといった企業に求められる要素は、無料の範囲だけでは賄いにくいのが実情です。まずは「何が守れていて、何が守れていないか」を把握したうえで、不足分を補う構成を検討しましょう。
Q. パスワード付きZipファイルの送付(PPAP)はなぜ見直されているのですか?
ファイルを添付した直後に、同じメール経路でパスワードを送る方式には、通信を盗み見られた場合にファイルとパスワードの両方が入手されてしまう、暗号化されたZipの中身をウイルスチェックできない場合がある、といった問題が指摘されています。2020年11月には内閣府・内閣官房が廃止方針を表明しました。代替手段としては、ファイルをURL化してアクセス権で制御する共有方法などが挙げられます。
切り替えの際は、単に禁止するのではなく、現場が使いやすい代替手段をセットで用意することが定着の鍵になります。

まとめ:導入後の運用まで含めた、メールを守る体制づくりを

メールセキュリティは単一の製品ではなく、「入口」「出口」「認証」「人」の4領域にまたがる取り組みです。IPAの10大脅威が示すとおり、メールを起点とする脅威は依然として上位に並び、生成AIの悪用が攻撃の巧妙化に拍車をかけています。2026年7月の E3 改定で標準機能は底上げされましたが、機能と運用は別物。成否を分けるのは、導入した後に「誰が、どう運用し続けるか」です。
まずは自社の対策を4つの領域に当てはめ、抜けている箇所を棚卸しするところから始めましょう。そのうえで、運用体制に不安がある場合や、E3 改定を機に対策全体を見直したい場合は、専門家に相談するのもひとつの方法です。メールセキュリティに関するお困りごとは、お気軽にお問い合わせください。

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